小さな星
           氷高颯矢
――誰でも心の中に小さな星を持っている。

目が覚めると、そこには小さな女の子がすやすやと安らかな寝息を立てて寝ていた。
驚いて置きあがろうとするが、服の袖を掴まれていて起きるに起きれない。
どうしてそんな事になったのか整理して考えてみた。
昨夜、夜遅く帰ってきた彼は自宅に帰るのも客用の寝室を用意してもらうのも面倒になって、彼の主君が仕事の為に使用している部屋を無断借用したのだ。
この部屋の鍵を持っていて良かったと昨夜はつくづく思った。
すぐに寝床に直行したのだが、眠ってしまってその後の事は全くわからない。
だが、一つだけ思い当たるフシがあった。それは、鍵を掛けずに寝てしまった事である。
「お前の寝顔は父親そっくりだな、ティア」
空いている方の手で頭を撫でてやる。すると、それに気付いたのかパッチリと目を開ける。
サファイヤブルーの零れるような瞳が落っこちそうになる程見開いていた。
「おはよう、ティア」
「う…うわぁ〜ん、父様ぁ〜!」
「こらこら、泣き喚くな。俺はお前の父様のお友達なの!」
「父様の…?」
涙を浮かべた目でじっと顔を見る。
「ティア、しらない」
「おいおい、忘れちゃったのかぁ〜?仕方ないなぁ…」
「しらないもん。ティア、しらないヒトとお話しちゃダメってシレネにゆわれてるの。だからお話しちゃダメなの〜」
また泣きそうになるのを何とか止めようと、彼はあるメロディーを口ずさむ。
「そのおうた、知ってる。ティアの父様の歌ってくれるおうたなの」

庭に出て月明かりで星を探した
あの空のたくさんの星の中から
たった一つ 大切な あの子にあげたい
星を一つ 小さな星 きみのために
それはすぐに見つからない だけどいつかは
どんなヒトでも見つけられる たった一つだけ
星は巡る やがて出会う 輝くために
小さな星 心の中 そっと咲いてる
探してた 小さな星 やっと見つけたよ きみのために


「これ歌うと泣き止むのは血かな?」
「…?」
「この歌はな、お前の父様が小さい時に子守唄代わりに聴いてた歌なんだよ」
昔を思い出す。小さい頃は泣いている彼を慰める為によく歌った。寂しくてどうしようもない時、一緒に眠る時も歌った。
何故だかいつもこの歌だった。
「父様のおともだち?」
「そうだよ。フェンネル。シレネのお兄さんだ」
「シレネのお兄さんはセージュとディルなのよ?フェン…もお兄さん?」
「そう」
「ふ〜ん。じゃあ、いい」
ティアは納得したようだ。ところが、だんだんモジモジし始めた。
「どうした?」
「おしっこ」
「おしっこ?ちょっと待て、もうちょっとだけ我慢だ」
「もれちゃう〜」
フェンネルはティアの身体を担ぐ様に抱き上げると、乱暴にもドアを蹴り開けてトイレへと走った。

トイレを済ませたティアはすっかりご機嫌でフェンネルに抱かれ、そのまま朝の散歩に出た。
朝、ティアニスを迎えに行った侍女は寝所がもぬけの殻になっている事に動転して大騒ぎしていた。
そんな事とは露知らず、フェンネルとティアは庭を散歩していた。
「ティア〜どこだ〜?」
「あ、父様だ!父様〜!」
血相を変えて薄い夜着のまま庭に出てきた青年は、ティアを抱いたフェンネルの姿を見て呆然とした。
「よぉ!」
「フェ…フェンネル?ティアを攫ったのはお前の仕業か?」
「仕業とは随分じゃねぇ?第一、俺はお前の執務室で寝てただけだぜ?そこにこのちっこいのが入ってきて寝てたんだよ」
「ちっこいのじゃなくてティアなの〜!」
「そっか、悪い」
ねぇ〜と言うように顔を見合わせる二人に少し釈然としないものを感じたのか眉をひそめる。
「ティアはお前と寝たくて脱け出してきたのに、どうしてお前は自分の寝室に居なかったのかな〜?」
「――っ!ちょっ…(子供の前で何てこと言うんだ、お前は〜!)」
「だから、お仕事のお部屋に行ったの。そしたらフェンがねてて、ティア父様と間違っちゃったの…」
「そうか…ゴメンな、ティア」
「でも、フェンがおうた歌ってくれたから許してあげるの」
えっへんと胸を張る娘の姿に思わず笑みが零れる。
「お歌?」
「『小さな星』だよ。起きた途端に泣き出すから仕方ねぇじゃん…」
照れくさそうにフェンネルは顔を背ける。
「それはそれは…娘がお世話になりまして」
「本当、お世話さまだぜ。トイレの世話までさせられたんだぜ、この俺が」
「トイレ…って、ティアの?」
「当たり前だろ?」
幼女とはいえ、仮にも一国の王女が結婚前に立派な(?)殿方と一緒に眠り、トイレの世話をしてもらうなんて…と頭を抱えた。
「アーウィング、お前、俺を誰だと思ってる?俺はこう見えても妹の世話でそういうのは慣れてるんだぞ?一国の王女が…とか悩んでんなら馬鹿らしいぞ。お前の娘なんだから俺の姪みたいなもんだろ?」
男前な笑顔で言うものだから、これ以上つまらない事を考えるのはやめにした。
「まぁ、ティアが大人になった時にそれを覚えてたら仕方ないよなぁ…」
「しかたない?」
「そう、その時は責任をとって嫁に貰ってやるから安心しな」
「お嫁さん?」
「そう。ティア、大きくなったら俺と結婚するか?」
「フェンと〜?う〜っ、ティアは父様のお嫁さんになるからダメなのに〜」
それを聞いてパッとアーウィングの顔が明るくなる。
「ティア〜」
メロメロの親バカ丸出しの表情だ。父親とは娘に弱い、そういうものだ。
「父様はティアの母様と結婚してるからティアとは結婚できないんだよ?」
「え〜っ!」
「だから、俺にしときな。その代わり、父様に弟ができるように頑張ってもらわなきゃだけどぉ〜」
「フェンネル!」

小さな星を一つ、見つけたんだ
昔に見つけたあの星と同じ輝きを
あの頃と同じ気持ちで

観月らん先生お誕生日記念SSです。内容は全く関係ないし、リクエストされた訳でもないですが★
個人的にフェンネルをいっぱい書きたくなって書いたと言っても過言ではないですね。
RATTU先輩はリュートよりフェン×ティアの方が萌えだと言ってくれました。
ええ、内心僕も萌えました。
でも、所詮フェン×アーの類似品…(ゲフンゲフン★)
イメージ的にフェン×ティアは「ベイべ★★」の結●×ゆず●っぽい感じ?

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